鼎談:藤原名誉院長×県立尼崎医療センター整形外科 松本泰一科長

藤原この4月から松本先生が県立尼崎総合医療センター(以下 AGMC)の整形外科のトップ(科長)に昇進されました。あらためて、おめでとうございます。

松本有難うございます。お蔭さまで変わりなく、緊張感をもってやっています。

中小病院とセンター病院との協力体制

藤原久義先生

藤原では本題に入ります。私が兵庫県立尼崎病院の院長に就任した約20 年前、尼崎の地域医療の最大の課題は救急医療と高度急性期病院の整備でした。そこで、両県立病院(尼崎病院と塚口病院)を統合し、大規模ER型救急救命センターを持つ大型高度急性期病院AGMC(730床)が誕生しました。これから必要とされる医療は急増する80歳以上の超高齢者に対する医療介護で、そのためには100~200床ぐらいの中小病院の充実、特に高度急性期病院とのコラボレーションが重要となります。それでAGMCの松本先生にもご協力いただいて、整形外科領域でのモデルケース構築を進めています。現状を説明して下さい。

松本はい。AGMCの整形外科は約 50 床ですが、ベッドが足りず他病棟にも間借りして60~70 床ぐらいで運営しています。でも年間手術症例が 1600件以上あり、運営はなかなか大変です。おおくま病院は僕の専門の手の外科の外来でのリハビリもして下さるし、野口先生はうちの元科長で、術後早期に地域包括病棟へ転院を受けていただいて、すごく助かっています。

野口 隆(当院整形外科部長)3年近いタイアップで、リハビリ技師のレベルは上がっています。松本先生が毎週リハビリの指導もして下さるので、今後ますます充実してゆくでしょう。

藤原双方にメリットがあるわけですね。おおくま病院に紹介する時、患者さんにどのように説明して、術後どれぐらいで転院していますか?

松本手の患者さんには、僕が毎週、おおくま病院に行き診るから、おおくま病院で術後リハビリをして欲しいと言います。手と肩の患者さんは術後1週間ほど、膝と股関節、脊椎は大体2週間ぐらいでおおくま病院地域包括ケア病棟へ転院ですね。転院当日におおくま病院のマイクロバスが、AGMCまで、患者さんを迎えに来てくれ、助かっています。

藤原かなり早い転院ですけど、患者さんは納得していますか?

十分なリハビリ単位数の確保がポイント

松本泰一先生

松本外来で説明する時点で「術後落ち着いたら転院してリハビリしましょう」とお話ししてあります。術後の患者さんはリハビリを一生懸命したいものです。リハビリは1単位20 分ですが、6単位も9単位もできる人や必要な人はあまりいなくて、落としどころは4 単位。おおくま病院は平日4単位以上できて、患者さんも満足していると思っています。

野口特に術後患者さんでは1日4単位以上、客観的に必要なら5単位、6単位と、回復期リハビリ病院と遜色ない量を実施できていると思います。地域包括ケア病棟の入院の上限は60 日ですが、回復の良い手の患者さんはもっと早く退院されます。膝や股関節術後の方は1月あまり入院される方が多いです。

藤原おおくま病院からの退院後はどうなるんですか?

野口当院に通院できる方は、外来でリハビリを継続する方も多いです。家が遠方な方は通院しやすい施設をAGMCから紹介いただいています。とは言え、通院で運動療法をしてくれるクリニックは少ないのが実情です。

スタッフ教育とスタッフ同士の連携

松本手のリハビリは、かなり専門的なんです。特に難しいのが腱損傷の術後で、再断裂が多いですし、指によってリハビリのしかたが変わってきます。今は早期に運動を再開するのが主流ですが、腱がつく前に動かすがゆえの再断裂のリスクを見計らいながらリハビリしていただいています。AGMCで緊急手術をして1週間入院して、その後はおおくま病院の地域包括ケア病棟で引き継いで合計 4~5 週間入院して、しっかりリハビリします。

藤原それを松本先生が監督してるんですね。

松本はい。状態のチェックと、作業療法士が迷うところは僕がOKを出してリハビリを進めてもらってます。肘など、他の部位のリハビリもそうです。骨折後のリハビリも、僕がレントゲンとか確認しながらOKを出します。骨が癒合しないうちにどんどん動かすと、骨がつかなくなりますので。

野口隆先生

野口肩の術後の方も多いです。3週間ほど装具で固定し、その後、段階的に固定を解除してゆきます。装具が取れて肩の動きがある程度改善したら、通院に切り替えます。

藤原AGMCの整形外科常勤医師は11人でしたね。彼らとはコンタクト取れますか?

野口質問があって電話することはたまにありますが、主にはメール連絡ですね。非常にいい関係で意思の疎通も取れてますし、当院のリハビリ技師は理学療法士(PT)18名、作業療法士(OT)5名、言語聴覚士(ST)3名と合計26名いるんですが、AGMCの技師と良い協力関係にあって、メールでコンタクト取っていますよ。なお、手のリハビリはOTが担当することが多いです。

病院間連携の未来像と新築移転したおおくま病院について

藤原分かりました。病院間のコラボレーションに関する今後の抱負をお願いします。

松本救急患者さんがいるのに手術室の空きがない時、その患者さんをおおくま病院に入院をお願いして、医者がおおくま病院に来て手術ができる体制ができたら素晴らしいですね。家族が連れて行けなくても、マイクロバスで迎えに来てくれて助かっています。

野口今は当院整形外科は私 1人ですが、もう1人いればもっと多くの転院を受けられますし、緊急手術の助手もできるようになって、手術もより多く実施できると思います。
ところで松本先生、旧病院時代から先生に毎週来ていただいていますが、病院が新しくなって、おおくま病院への転院を勧めた時の患者さんの反応はどうですか?

松本変わりました。かなり古かったのが新しくなって、「あの国道2号線沿いにできた綺麗な病院やね」、ってすごく反応が良くなったと思いますね。
(注:AGMC整形外科からの転院患者数は、2024年10月の病院移転までの7~7.5人/月から、移転後の2024年11月から2025年5月では10.0人/月と3~4割増加)

野口満床などで無理な時があるのは当然ですが、AGMCに緊急手術が必要な症例を紹介して、受けてもらえるのは7割ぐらいかなぁ。

松本7割?それはちょっと怒っときますわ。え?でも、もっと受けてますよ先生(笑)。ほぼほぼ取ってるはずだけどなぁ(笑)

藤原手の分野で結構ですが、何かAGMC整形外科の新しい取り組みとかありますか?

松本2017年11月からリウマチの手関節症と変形性手関節症に関して、人工手関節が使えるようになっています。我々はそれらを積極的に実施する全国的にも数少ない施設です。最近、メノポハンドと言って、高齢で閉経後の変形性指関節症が、メディアで焦点を当てられてまして、当院でも指の人工関節置換術を行っています。あとは、非常に重症な外傷の緊急手術に積極的に取り組んでいる、といったところでしょうか。

藤原今日はどうも有難うございました。ますます発展的に連携を進めてゆきましょう。