難治性腹水への「奥の手」
当院では癌や肝硬変で生じた腹水で難渋されている患者さんに「腹水濾過濃縮再静注法(以下CART;Cell free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy):図1」を積極的に行っています。この治療についてご紹介致します。
癌や肝硬変が進行して多量の腹水で苦しむ患者さんがおられます。腹水が大量に貯留するとお腹は妊婦のように膨らみ、腹圧が上がって臓器が圧迫され、消化管なら食欲低下・便秘、腎臓なら尿量減少、横隔膜経由で肺が圧迫されると呼吸困難が出現します。このような状況では平安な日常生活を過ごすことができません。主に、利尿剤では改善しない患者さんを対象に開発されたのがCARTで、腹水を穿刺して身体に必要な成分だけを濃縮し、患者さんに点滴で戻す治療です(図2)。
腹水で緊満した腹部に局所麻酔を行って穿刺し(図3)、チューブを留置します。腹水を抜き出し、透析に似た機械(旭化成メディカル:図4)を使用し、まず癌細胞、血球、細菌、フィブリンなどの成分を分離除去、さらに余分な水分や電解質を除去します。ここで総量は約10分の1となり、タンパク質(アルブミン・グロブリン)が濃縮された液が出来ます。この液を点滴して患者さんの身体に戻します。
多ければ10~20Lの腹水を除去します。患者さんは身軽になって苦痛の改善、食欲増加、便秘の改善、尿量の増加、活動性の改善などにつながります。また血液循環も改善され、むくみも消失します。さらには腹水中に漏れ出たタンパク質を血管内に戻すことで、栄養状態の改善や免疫力の活性化も期待できます。しかしCARTの効果に永続性はなく、再び腹水が大量に貯留すれば再度CARTを実施することになります。
CARTは2週間に1回までは健康保険が適用されます。標準的な治療時間は腹水の除去に3時間前後、濃縮液の点滴で2時間前後ですが、腹水の濃縮にも時間を要するので、基本的には1泊2日で入院していただきます。リスクが低い元気な患者さんは、日帰りでも実施可能です。CARTの件数は例年50前後です(2024年は病院移転もあり、46件でした)
難治性腹水の患者さんは他院からの紹介が多いですが、かかりつけ医がおられない腹水でお困りの患者さんは、遠慮なく当院外来にお越しになりご相談ください。
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