これから必要とされる医療とは?
第二報:ACP・人生会議
おおくま病院名誉院長・兵庫県立尼崎総合医療センター名誉院長
藤原久義
ACP・人生会議とは、人生の最終段階に備え、最期まで人間の尊厳を尊重した生き方に着目した最適な医療・介護が行われるべきだという考え方により、将来の医療及び介護について、本人を主体に、そのご家族・近しい人・医療・介護ケアチームが繰り返し話し合い、本人による意思決定を支援する取り組みのことです。つまり、ACP・人生会議とは、必要に応じて家族・医療・介護チームなどの支援を受けながら、本人自身が現在の健康状態や今後の生き方、さらには今後受けたい医療・介護について考え、記録に残してゆくことです。厚生労働省も尼崎市(医療・介護連携協議会)もこの取り組みの普及を積極的に推進しています。以前はリビング・ウイル(生前の意思表示)とも言いました。
これまでの医療は生活習慣病等の病気を早期診断・治し・早期退院・社会復帰を目指す医療で、目標は年齢を問わず、治し・延命することでした。そのため、我が国は、1961年に「いつでも」「どこでも」「誰でも」医療を受けられる国民皆保険制度と全国のどの医療機関も受診できるという世界一といわれる仕組みを整えました。その結果、第一報で述べたように平均寿命が延び、わが国は世界の最長寿国となりました(我が国の2024年の平均寿命:女性87.13歳で世界1位、男性81.09歳で世界5位)。この間、医療界においてすら、死は医療の敗北・正面から触れることは避けるべきタブーとして扱われてきました。
しかし人間の寿命が延び、平均寿命が80歳を過ぎると、全員が図1で示すようにフレイル(虚弱)の時期から要支援・要介護状態となり、医学では対応不能で不可逆な老化が進行、身体能力並びに認知機能が衰え、誰もが人生の最終段階(病気や衰弱が進行し、治療による回復が見込めず、余命が数か月と判断される時期)を迎え、人間は亡くなります。今後、わが国では80歳以上の超高齢者人口は2022年1235万人からさらに激増、高齢者認知症患者も2022年443万人からさらに激増すると予測されています図2。同時に超人口減少・超少子化・超生産年齢(15歳から65歳)人口減少が並行し、高齢化率も2022年の29%から2060年には38.3%に激増、そして超少子化・核家族化の進行と共に、家族に見守られながら生活し亡くなるこれまでの時代から、高齢者夫婦二人か一人暮らしで亡くなることがますます多くなります。また、深刻な人手不足をカバーするためのDX/ AI化(テクノロジーや人工知能の導入)も進行しています。いずれにせよ、現代は人類がこれまで経験したことのない超高齢者・超少子化社会に突入し、医療の中心軸がこれまでの治し・社会復帰を目指す医療から、超高齢者を治し・支え・看取る、生活中心の医療・介護&DX/ AI化へと変わりつつあります。一方、人工呼吸器等の延命医療が進歩し、重度の介護状態である要介護度5や重症の認知症等でも長期生存が可能となってきました。
このような状況の中で、すべての人がいずれ迎える人生の最終段階に、延命治療(病気が治る見込みがないにも関わらず、延命するための医療処置、例えば人工呼吸器等)は死の経過を遅らせ苦痛を長引かせるだけではないか? そのような寿命を少し延ばすことに意味があるのか? 逆に本人を苦しめるだけではないか? という疑問と共に、延命治療をはじめどのような医療・介護を受けるか否かを選ぶ権利が各個人にあるのではないか?という考え、すなわち、ACP・人生会議が重要となってきました。このような考えは、従来は終末期のガン患者などに対するホスピスといった特殊な患者のためのものと思われてきましたが、超高齢化時代を迎え、人生の最終段階をどう生きるか、何をしたいか、いかに過すのが人間の幸せかについて、全員が正面から考える時代になりました。
ACP・人生会議ですることは、尼崎市医療・介護連携協議会のACPリーフレット図3を参照いただくと分かるように、人生の最終段階になる前に、前もって将来の健康上の変化に備え、その時に受けることを希望する、または希望しない医療・介護について、①本人を中心に家族や医療・介護チームと繰り返し話し合い、②話し合った結果や変化する意見をACPシートに記録しておくことです。
ACPシートとは尼崎市が策定した図4のように、以下の4つについて、話し合い、その内容を記載・記録するノートのことです。
超高齢化時代、80歳以上の超高齢者や認知症患者の激増・多死社会の時代を迎え、死をタブー化せずにACP・人生会議を家族・医療・ケアチームと繰り返し話し合い、記録に残し、いざとなった時に困らないように、最後まで自分の生き方を貫けるように、元気な時から準備しておく時代になりました。